毎年いくつもの新規事業が誕生しているレバレジーズ。2021年度も8個の事業が立ち上がっています。今回はその1つである「わんコネ」の開発ストーリーについて事業部長の松﨑さんに聞きました。どのようにサービスが立ち上がっていったのか、そのなかで感じた苦労や、事業開発にかける思いなどを訊きました。(ライター:名井)
シニアライフ事業部 部長
2018年レバレジーズ中途入社。前職はERPパッケージソフトのベンダーでプログラマー、ITコンサルタントとして、ソフトウェア開発ならびにソフトウェア導入のプロジェクト管理やクライアントの業務改善をおこなう。レバレジーズに入社後は、介護住宅情報事業部(現シニアライフ事業部)に立ち上げ期から参画し、介護施設紹介業に従事。チームリーダー、新チームの立ち上げなどを経験し、2020年8月より現職。趣味は、海外サッカーと麻雀。
医療現場の課題解決を目指す
「わんコネ」は、医療機関を対象にしたSaaSシステムです。退院後に在宅での療養を困難とする患者の退院先となる医療介護施設の検索、ならびに退院先との患者データ連携やチャットによるコミュニケーションを可能にする機能を提供しています。
病院の業務には、患者が退院したあとも安心・安全な療養生活が送れるようにサポートをする「退院支援」という業務があり、この業務にかかわる退院支援看護師や医療ソーシャルワーカーの業務効率化を目的に開発されたサービスが「わんコネ」です。
彼らの業務は、患者一人ひとりの身体の状態や生活条件に合わせて医療・介護施設を選定していくことが求められるため、その分どうしても労力と時間がかかってしまいます。数ある候補の中から退院先を選定すること自体も一苦労ですし、選定後も、退院先との医療情報のやりとりや受入調整など多くの事務作業が発生します。
彼らの業務でもっとも本質的な部分は「患者やその家族の心理的サポート」です。それにも関わらず、そこに十分な時間を割けなかったり、業務負担の大きさから離職に繋がったりするケースも多く、業界で問題になっています。一方、患者側の視点に立っても本当に適した退院先が選定されずに患者本人やその家族の不満に繋がるケースも多く、最適化されていない領域だと感じていました。
こういったいくつもの課題が見えてくるなかで、インハウスで開発組織をもつ自社の特長を活かして、退院支援の業務を効率化するシステムをつくれないかと、事業構想ができあがっていきました。
いいえ、今回が初めての経験でした。
レバレジーズには中途入社しているのですが、当時の転職軸は「スタートアップ企業か新規事業に携われるポジションまたは環境」でした。父が起業をしていた家庭環境からか、学生のときから「いつかは自分で事業をやってみたい」という漠然とした想いがあり、2社目は事業運営に携われるポジションに身をおきたいと思い転職を考えました。
実際にスタートアップ企業と新規事業を展開しているベンチャー企業に限定して選考を受けていましたが、レバレジーズは会社の規模が比較的大きいにもかかわらず、意思決定のスピードがとても早かったため、本当にチャレンジしやすい環境だと感じ入社を決めました。
正直、ここまでの道のりは長かったなと感じていますし、振り返ると思った通りにいかなかったことのほうが多かったです。
顧客の声をもとにサービスを設計していくこと自体は楽しかったですが、「本当にこのサービスはお客さんの役に立つのか」「もっと早くリリースできないか」という不安や焦りを感じることも多々ありましたね。組織としてマネジメント面での失敗も経験しましたし、ここまでの過程が最善だったとはまったく思いません。
そういった苦労もありながらも、リリースしてから多くのお客様に好評をいただき、当初の計画よりも比較的早く導入を実現することができています。顧客インタビューに力を入れ、何が顧客へのメリットになるのかという部分にこだわりをもったからこその結果だと思います。
時間がかかったからこそ、お客様から良い反応をもらったときは喜びもひとしおですね(笑)
「わんコネ」開発の裏側を訊く
現在のプロダクト構想が始まったのは2019年秋です。そこから社長決裁を取り、開発チームをアサインし2020年から約2年間の開発期間を経て、2022年1月にリリースしています。
現場の課題解決を目的に始まったので、アイデア自体はすでにありました。ただ新規事業の失敗例として、アイデアベースでサービスをつくったものの、蓋を開けるとそれは正しく顧客のニーズを満たすものではなかったということがあります。マーケティングの基礎として有名な「ドリルの穴理論」で言えば、何の疑いもなくドリルを売ってしまうパターンですね。お客さんのニーズは穴を開けることであり、開けたい穴を深掘りすると、実は最適な道具はドリルではないかもしれないということです。
顧客の課題やニーズを捉えられていないシステムをつくって、結局それを使ってもらえなかったという状態だけは避けたかったので、開発初期は「リーンスタートアップ」の発想を使って進めていくことにしました。
リーンスタートアップとは、想定されるシステムを一気につくりあげるのではなく、その都度ユーザーに使ってもらいながらフィードバックをもらい、本当に必要な機能だけを段階的につくっていく開発手法のことです。現在ではより新しい考え方も出てきていますが、一時期はシステムやアプリ開発などでテック系のスタートアップを中心によく取り入れられていました。「わんコネ」では、リーンスタートアップの中でとくに使われる「リーンキャンバス」というフレームワークを活用してシステム設計を進めていきました。

まずはユーザーインタビューを徹底的におこないました。そこから見えてきた課題で重要度が高く、かつインパクトの大きいものから優先的に機能として実装していきました。それが今回リリースした患者データ連携とチャットでのコミュニケーションを可能にする「連携機能」です。
ユーザーインタビューをおこなった結果、退院支援業務に関わる連絡手段は電話とFAXが使われることが多く、院内関係者・施設担当者・患者の家族との事務連絡は、その都度電話でおこなわれていることがわかりました。大きい病院になるとソーシャルワーカー1人で常時30~40人ほどの患者を抱えていることもあり、その業務量は相当なものです。
「連携機能」の実現により、退院先に対して1件1件口頭で伝えていた患者情報をテンプレート化させて、複数の病院や施設に一括で提供できるようになりました。また、業務の空き時間にチャット上でやりとりができるようになったことで、1日の電話回数を削減させることができました。


いろいろありますが、大きく2つありました。
1つは組織的な問題です。先程お伝えした体制は実はここ1年間のもので、エンジニアチームは開発の過程で2回体制変更をしています。ビジネスサイドと開発サイドの亀裂が生まれてしまったこともありましたし、メンバーの異動や退職などもありました。もちろん関わってくれた全員がこのサービスを本気で世に出そうと取り組んでくれていたので、過去にいたメンバーには感謝しかないですが、一方でプロダクト開発の難しさを痛感した部分の1つですね。
もう1つは市場性です。医療・介護業界はまだまだ保守的なところも多く、これからIT化が進んでいく業界の1つです。そこに新しいツールや考え方を浸透させていくところには苦労しています。最近ではカルテの電子化やオンライン診療など業界のDXにも注目が集まっていますが、まだまだアナログなところも多いです。
営業先のお客様がサービスに対してある程度の理解を示してくださっても、医療機関として実際に導入に至るまでには、予算の問題だったり、個人情報やセキュリティの問題だったりと多くのハードルがあります。サービスの導入障壁をさげるために、関係者の心を動かしていく必要がありますし、アーリーイノベーターを増やしていくための取り組みも段階的におこなっています。
まず、新規事業というとキラキラしたイメージをもたれるかたも多いですが、そこの誤解から解消しなければいけないと思っています。新規事業は成功したときの注目度や達成感が大きい一方、そのプロセスは思っている以上に泥臭いことが多いです。そのため事業をスケールさせる過程で、モチベーションを失うメンバーやマネジメント上の問題を抱える組織を数多く見てきました。実際に僕もマネジメントの失敗をしています。そこに魔法のような解決策はなく、若いメンバーにはひたすらリフレーミングすることが重要ではないかと思います。
その1つの手段として、複数の新規事業チームで集まり独自で運営をしている社内のメンター制度があります。既存の大きい事業だと部門やチームが複数あり部門・チーム間の交流がありますが、新規事業だとそうはいきません。組織規模も小さいので、悩み相談ができる第三者的な存在が周りにいない状況も環境としてはよくあります。また結果が出るまでに時間もかかりますし、事業が軌道に乗るまでには数字面でもより大きなプレッシャーにさらされます。
そういったときに、同じく新規事業という位置づけの他部署のリーダーやマネージャー層がリフレーミングしてくれたり、悩み相談や壁打ち相手になってくれたり、若いメンバーが内省しながら自分の考えを整理する機会を提供しています。
事業を通じて社会課題の解決に挑む
2つのことを考えています。
1つは「わんコネ」の機能拡充です。ここから退院支援業務の効率化を進め、顧客への提供メリットをさらに追求していきたいと思っています。既存機能である程度の業務効率化はされていると思いますが、より利便性をあげるために、患者情報登録の自動化や検索機能に機械学習によるレコメンド機能を取り入れるなど、より業務の効率化を進めていくようなシステムを構想しています。
もう1つは、支援領域を広げたいと思っています。現在は退院支援業務に限っていますが、病院全体の業務を考えると退院業務は一部分にすぎません。患者が入院するところから退院までのすべてのプロセスをサポートできる管理システムのようなものをつくることができれば、患者側にとってもメリットになるし、病院や施設側では業務効率化のみならず、入退院の最適化を図ることができます。
そしてゆくゆくは病院の経営改善まで繋げていけるようなシステムにしていきたいですね。
医療・介護業界のIT化推進を通じて、少子高齢化でもたらされる社会課題の解決に貢献していきたいです。
本格的な少子高齢化を背景に労働力不足が深刻な社会問題となるなかで、レバレジーズでは日本の労働力問題の解決にむけた事業展開に積極的に取り組んでいます。労働人口を増やすために人材の適材配置を促進させる人材支援事業や、あらたな労働力を誘致するためクロスボーダーの人材紹介事業などさまざまな方面からアプローチしています。
現時点でシニアライフ事業部では労働力不足に直接アプローチするような事業は展開していませんが、少子高齢化によって引き起こされる社会保障費の増大に対してアプローチしていけると思っています。たとえばソーシャルワーカーの業務改善をして人件費が削減できた場合、その分医療保険や介護保険といった保険料を間接的に抑えることができますよね。このように業務効率化のシステム導入などを通じて、医療・介護業界の生産性向上、ひいては社会保障費の削減というところを最終的には目指しています。
目の前のお客様の課題を解決することはもちろん、社会全体が直面する課題にこの事業を通じて少しでも貢献していけたら嬉しいです。