2019年度新卒エンジニア研修レポート(後編)
カルチャー
こんにちは。レバテックのシステム開発やレバレジーズのエンジニア採用を担当している森實です。第2回にわたり、2019年度版新卒エンジニア研修についてご紹介しています。今回は、その後編です。
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森實(Morizane)
メディア企画部 テクノロジーセンター長新卒で大手SIerに15年間勤務後、2018年にレバレジーズに入社。現在はグループ全体のエンジニア組織を牽引しながら、自らもコードを書くエンジニアとして活躍。外部では、日本XPユーザグループのスタッフ、「BIT VALLEY -INSIDE-」を主宰する傍ら、認定スクラムプロフェッショナルとして様々なイベントでの登壇実績も持つ。プライベートでは子どもとキャンプや登山、モータースポーツ観戦などに出かけるアクティブ派。
サービスを形にする、ハッカソンセッション
アイディアソンセッションが終了し(前回記事はこちら)、ここからようやくハッカソンセッションが始まります。アイディアソンで計画したことをチームで協力して活動に移していく時間となります。このハッカソンセッションには、「開発」「ユーザーレビュー」「アイディアソン」の3つのスプリントが含まれています。「開発」スプリントにおいては、連続して3回を超えて設定することはできないという制約がつきます。
開発スプリント
開発スプリントには「スプリント計画」「スプリント実施」「ふりかえり」が含まれます。
スプリント計画
スプリント計画は、スプリント毎の冒頭30分を目安に行います。開発スプリントの場合は、すでにアイディアソンセッションの中で作成したユーザーストーリーカードの優先順位をつけた一覧の上位から、15分以内を上限とする単位でタスクに切り出し、優先度の高い順からカンバンに張り出します。
付箋の色は、黄色が機能開発に関わるもの、青は調査などのスパイク、ピンクはスプリント実施中に計画漏れが見つかったときに追加で張り出し、記載内容はそのタスクの完了条件としています。(上の写真はまだはじめてのスプリントなので、ピンクの付箋はありませんね。)
カンバンは、通常「To Do」「Doing」「Done」で構成することが多いですが、4hスプリントでタスクの粒度を15分以内に終わるものに設定する場合、「To Do」と「Doing」を区別する必要性がほとんどありません。この2つはどちらも現状「できていないこと」を表しているだけなので、今回は「やるべきこと」と「終わったこと」が明確になるよう、「Doing」と「Done」のレーンだけを用いています。最終的に「Doing」に付箋が多く残ったら、計画過多であったということになります。
スプリント実施
計画が完了したら、実際に開発に入っていきます。スプリント実施にかけられる時間は概ね3時間。制約事項にもあるとおり、今回はチームで最も不得手な技術を使って取り組みます。そもそもその技術に対する知識不足、ぶつかる課題や悩みの数も計り知れません。同時にペアあるいはそれ以上の人数で課題に挑みながら技術を身につけることが求められます。
開発スプリントのふりかえり
こちらも毎スプリント30分程度の時間をかけて行います。エンジニア、デザイナー、マーケターの先輩社員にも混じってもらい、コンセプトを説明してもらったり、実際に動くソフトウェアを見せてもらいます。ここでは、企画しているサービスについて初めてサービスを知る先輩社員たちにしっかりとコンセプトや目的を伝え、それがソフトウェアとしての形、あるいは今後の方針としてどれだけ正しく伝わるか、そこからどのようなフィードバックを得られるかがポイントとなります。
チームで行うふりかえりは、KPTAを使います。KPTは天野勝氏の「これだけKPT」などで有名ですが、KPTAの方式を今回は採用しました。通常のKPTとの違いは、Actionを項目と足しているところです。Tryに書いた内容が実際に実現できなかった経験を持つ人はたくさんいると思います。その理由の一つは、アクションプランに落とせていないからです。その部分を補完したのがKPTAであり、この研修で重視しているふりかえりの大きな要素の一つとなります。
個人で行うふりかえりは、いつもどおりYWTで行います。
ユーザーレビュースプリント
開発を進める中で最も危険なのが、チームが何の疑いもなく一方向に向かってそこに価値があると思い込んで進んでいる状態です。そのためこの研修では開発スプリントは最大連続3回までとし、その次には必ずユーザーレビュースプリントを入れることを制約にしています。
ユーザー役には、エンジニア、デザイナー、マーケターの先輩社員をアサインしています。このスプリントでは、作成しているサービスがユーザーにとって価値があるか検証してもらいます。ユーザー役にはサービスの想定するペルソナになりきり、フィードバックをしてもらいます。新卒エンジニアは、このフィードバックを自分たちのサービスに活かしていきます。
ユーザーレビュースプリントの進め方
先輩社員に仮想のユーザーになってもらうため、アイディアの背景、想定するユーザー、ユーザーがもつ課題、課題を解決することでもたらされる世界を説明し、ソフトウェアを使ってもらいます。あくまで、つくり手としての目線で自分たちの成果物に意見を集めるセッションであるため、ユーザーに直接質問したり、フィードバックをもらえるようなプレゼン、質問などを主体的に行う必要があります。フィードバック観点の例は以下の通りです。
・コンセプトは正しいか
・目的に共感できるか
・アイディアは評価できるか
・使い勝手は良いか
・評価指標は正しいか
ユーザーから引き出したフィードバックをもとに、アイディアの練り直し、ブラッシュアップなど、サービスの目的に立ち返って見直す「むきなおり」を行っていきます。この「むきなおり」については、市谷聡啓氏の『カイゼン・ジャーニー』という書籍にも出てきますが、ただふりかえるだけではなく、あるべき姿との差から、今後の方向性を決めることを目的に行っていきます。
ふりかえり
ここでも、個人でYWT(やったこと・わかったこと・次にやること)を使ってふりかえりを行います。
中間発表セッション
中間発表セッションは、事実上のアプリケーションリリースの1回目です。ある意味、このタイミングに向けてこの1週間を彼らが過ごしてきたといっても過言ではない強烈なフィードバックのセッションです。
このセッションは、このサービスのレビュアーに対する中間説明の場、という位置づけで開催します。レビュアーにメディアシステム部部長の久松、レバレジーズ技術顧問の寺尾、メディア企画部部長の荒井、その他マーケティング部や人事部のリーダー層を揃え、支援継続(サービス開発の継続)を厳格に判断する、という設定です。その他、新卒エンジニアのふりかえりに同席してくれた先輩社員や、通りすがりの社員がオーディエンスとしてたくさん集まってくれました。
進め方
まずは、これまでのアイディアソンやふりかえり、むきなおりを通してブラッシュアップしたアイディアについて、デモを交えて10分間のプレゼン、そして20分間のQAという形で、サービスの新規性、独創性、有用性を掘り下げていきました。
マーケター視点では、情報収集とそこから導いた仮説について、どのように考えどうアプローチしたかという鋭い質問が多く飛び交いました。またエンジニア視点では、どうしてそれを作る必要があるのかという、一見エンジニアリングとは真逆に見える本質的な質問が多く出ました。もちろん、システムでやろうとすることの大半は実現可能です。だからこそ、「それは本当にシステムでやる必要ある?」という全体からみた考察ができる力をレバレジーズのエンジニアには養ってほしいのです。
最終的に、2チーム共もう1週間現在の開発を続けて最終報告してほしい、という言葉をレビュアーの方々からいただくことができました。
むきなおり
フィードバックを受け、サービス自体の価値を大きく見直すことにしたチーム、よりターゲットを明確にするために方向性を定め直したチームなど、それぞれが改めて自分たちの向かうべきゴール設定を行いました。
ふりかえり
このセッションにおいても、ふりかえりは行います。チームでFun / Done / Learn(+NA)、個人でYWTを用いました。
閑話休題、中間発表までの成長
開発スプリントについて、講師も先輩社員も特別に指示を出すこともないまま進めてきていますが、2週間経つと自然に大きな変化が現れます。
例えば、下記のカンバン。
上の写真の①が2日目午後の開発スプリントが終わった直後のカンバンです。計画はされていますが、「Done」に移動したタスクは1枚。本来15分でこなせるはずのタスク1つが彼らの3時間の成果でした。
②は、8日目の午後の開発スプリントが終わった直後のカンバンです。個人やチームで、次のイテレーションではどうカイゼンしていくか、チームとしてどういう動きをしようか、ということを毎回議論していった結果です。計画時にタスクに切り出せなかったピンクの付箋がいくつかありますが、その分を加味すれば、「Doing」に残ったカードをちょうど消化できる程度には見積もりの精度はあがっていることを示しています。
そして、③が9日目の午前の最後の開発スプリントが終わった直後のカンバンですこちらは、15分単位に細かくタイムボックスで目安を付けながら、ほぼ計画通りに作るべき機能(黄色い付箋)をすべて作り上げることができるようになりました。
このように、自分たちなりのカイゼンを積み重ねることで、しっかりと成果につなげることができているのがわかります。
最終発表セッション
最終発表セッションは、今回の新規サービス開発のゴールです。本来のサービス開発で言う、グロースのスタートに当たります。
最終発表セッションは、中間発表 と同様にこのサービスのレビュアーに対する最終説明の場という位置づけで開催します。レビュアーには中間発表セッションと同じく、エンジニア、マーケ、デザイナー、人事と他職種の社員をアサインし、総合的な判断を受ける場として設定しました。オーディエンスは更に増加して、立ち見の社員がいるほどです。
進め方
進め方も中間発表セッションと同様です。但し、本当の最後なので、発表資料にも実際に開発したサービスの説明にも相当熱がこもっていました。
以下、1つのチームのサービスの抜粋とアプリケーションの一部をご紹介します。
「I-To」は、今までの自分を形作ってくれた人達がどれだけいて、その人たちとどのように繋がり持ったかを思い起こしてもらうサービス。人生における人との出会いや繋がりを再認識することで、ユーザー自身の人生価値を正しく認識してもらいたいという願いが込められています。
レビュアーによる総評
マーケ、デザイナー、エンジニアの視点でそれぞれのサービスに対して、評価できる部分、持ち合わせて欲しい視野・視座の部分、自己満足に終わらず利用者を意識することの大切さに関して総評がありました。
どちらのチームもエンジニアだけでこの研修に取り組んでいるため、実際にユーザーに届ける価値を落とし込む分析的思考であったり、物事の本質をとらえる概念的思考、そして実際にプレゼンテーションを含めて相手に伝える、魅せるという部分においての表現力の部分で、今まで使ってこなかった脳を鍛えるよい機会となったことと思います。そして、それこそがレバレジーズのエンジニアに求められるスキル、能力なのです。
ふりかえり
最終発表セッションでは、これまでの2週間全体を通した面を含めた研修全体のふりかえりを行いました。まずは全員でワールド・カフェを用いて、チーム毎に気付きや学びのディスカッションを行います。そして後半にチームを超えたメンバーにして更に学びを深掘っていきました。
また、最後にいちばん大切な個人毎のYWT。ここでの内省、そして「次にやること」が、これからの配属後の自分たちが進む道につながっていきます。
おわりに
この2週間、多くの人たちに支えられて彼らは育ってきました。もちろん、同期であるエンジニア同士もそうですし、諸先輩方、職種を超えてたくさんのフィードバックをくれたマーケター、デザイナー、人事の社員もそうです。思いつくままに、出来る限りの感謝を形にするべく、以下のサンキューシートというものを使って一人ひとりに感謝の気持ちを綴ってもらいました。
目標宣言
そして、来年の3月、1年目満了に向けて、自分たちがどうなるのかを一人ひとりに宣言してもらいました。この宣言とそれについての毎月の成果報告定例会の様子は、別途テックブログで紹介していきますのでお楽しみください。
新卒エンジニアの感想
新卒エンジニアの日報とアンケートから、一部抜粋して転載します。
「ただコーディングをするだけでなく、誰に何を届けたいのかを意識できる『エンジニア』になる術が見えるようになった」
「4時間という短いスプリントを多く繰り返すことで、鋼を鍛えるような感覚だった」
「自分たちなりに高頻度でふりかえりを回していく必要があり、それを通してカイゼンしていくことを体験できた」
研修のふりかえりと来年に向けて
2週間の彼らの成長をみていて、今回の目的であった「サービスオリエンテッドな発想で技術による社会貢献を実現する」「技術の引き出しを増やす」という点は狙い通り達成できたのではないかと感じています。研修では誰かに何かを教えてもらうだけでなく自学しながら、またチーム開発に取り組む中で、自分たちの力で挑む(自走する)ことを体得してくれたと思います。
なにより、今回は「ふりかえり」のもたらすカイゼンに重きをおいており、実に2週間で個人でのYWTを26回、チームでKPTAを14回、Fun / Done / Learn(+NA)を2回、ワールドカフェを1回行いました。合計で43回も成長のためのポイントを置くことができたことは大きかったと思います。1回1回のカイゼンはとても小さいですが、それが少しずつ小さな積み重ねとなって爆速で成長できたといえるでしょう。本人たちは辛かったと思いますけどね。
そして今年は新卒エンジニアだけでサービス開発研修を行いましたが、1年上の先輩との協業であったり、デザイナーとの協業であったり、よりよい形にアップデートしていきたいと思います。
おまけ
もちろん、研修運営メンバーでもKPTでふりかえりをしましたよ。
新卒エンジニアたちのこれからの活躍にご期待ください!