経営者目線で考える「NPS®活用法」と気をつけたい3つの注意点

マーケティング・専門職、事例紹介【vol.1】

複数のマーケター・エンジニア・デザイナーチームを有するレバレジーズでは、新しいノウハウやツール導入によるナレッジが蓄積されています。本連載企画では「マーケティング・専門職、事例紹介」と題し、各チームでの事例を基にその効果や注意点を紹介します。今回は「NPS®導入事例」について、ケアマーケティングチーム責任者の古谷さんに話を聞きました。(聞き手:徳永)

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プロフィール

古谷(Furuya)
マーケティング部 ケアマーケティングチーム リーダー

2015年中途入社。マーケティング部プロモーションチームに配属後、立ち上げ時から介護事業における集客を一貫して担当。並行して主要事業である医療・IT領域の集客を担い、統計や会計など幅広い視点からのアプローチにより突出した成果を上げる。2017年に介護事業のマーケティング責任者に抜擢され、社内外問わず双方向からのマーケティング活動によって大規模な事業拡大を牽引。趣味は音楽とお酒。

「ケアマーケティングチーム」とは

 介護人材派遣・紹介サービス「きらケア」を対象に、専属で問題解決にあたるマーケティング部署です。特定のマーケティング機能に限定せずに、主にIT・テクノロジー領域の知見を用いて事業が抱える問題や課題を幅広く把握し、解決方法を提案します。またその提案の際には、売上の最大化を目指し、PLを基に費用や人員配置も含めた提案を行っています。

 レバレジーズのマーケティング組織は、ケアマーケティングチームのような「事業軸チーム」と、プロモーションなど特定の領域を専門的に担当する「機能軸チーム」に分かれています(関連記事はこちら)。課題によっては事業部と機能軸チームの橋渡しを行い、プロジェクト管理を行うこともケアマーケティングチームの役割です。

「NPS®」とは

顧客満足度とは異なる「NPS®」

■NPS®とは
・Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)の略
・顧客ロイヤルティを測る指標

■NPS®で得られるアウトプット
・11段階で表す顧客からの評価スコア
・スコアの理由コメント

 NPS®の最大の特徴は「あなたはこの企業(製品・サービス・ブランドetc.)を、友人や同僚にお薦めしたいと思いますか?」と問うことにより、回答者本人ではなく、「回答者から周囲への広がり」がデータで得られる点です。それに対し、NPS®と混同されやすい指標として「顧客満足度」がありますが、こちらでは「自身が満足したか」を問います。

「人に薦めるか」をモニタリングする理由

 一般的に、NPS®は時間軸的には極めて「現在に近い点」に焦点を置いて扱われることが多いと考えています。これは、NPS®が「現在状況の把握」に利用されていることに起因しています。しかし、売上や利益の最大化を念頭に置き、NPS®を「経営者目線」で利用する弊社の場合、NPS®は「将来の期待価値」を測る指標であると考えています。売上や顧客満足度は利用したユーザーへの「現在の提供価値」を測る指標である一方、NPS®は利用したユーザーから周囲への広がりを測定できるためです。

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 売上は「どれだけの人が転職に成功したか」というエビデンスであり、サービスとして現在どの程度の価値提供ができているのかを、直接的に測ることができる指標と言えます。しかし、現在の売上が高いことは「将来の売上」に繋がるとは言えません。

 一方NPS®では、今回は転職しなかったとしても「転職についてポジティブに考える機会が提供された」ことを意味します。本人はもちろん、薦められたユーザーは将来的にサービスを利用する可能性があるため、NPS®は「将来の期待価値=事業拡大率」を間接的に測ることができる指標と言えます。経済で言うところのいわゆる「先行指標」で、将来の拡大がどのようになるのかを予測するための材料です。

 よってNPS®は、売上とは別でモニタリングし、将来を見据えて改善に取り組むべき指標と捉えています。

レバレジーズでの導入事例

NPS®導入目的

 導入目的の1つ目は「サービス品質の定量的なモニタリング」です。例えば「介護に関わる誰もが輝ける業界にする」をミッションに掲げるきらケアでは「誰もが」とある通り、転職したユーザーだけでなく、転職しなかったユーザーにもサービス価値の提供を目指しています。

 一般的に、人材サービスでは「入職率」が成果指標とされており、その指標を用いることで「転職まで導く」というサービス価値の測定は可能です。ただ、転職したからといって「提供したサービス価値が高いのか」というと必ずしもそうではなく、逆に転職しなかったからといって「提供したサービス価値が低いのか」というと、そういう訳でもありません。転職したかどうかはもちろん重要ですが、ユーザーがそこに至るまでに「良き相談相手として、その人の人生に合ったアドバイスができるか」が、提供すべきサービス価値として重要となるわけです。そこで、転職したかどうか=売上のみでは測ることができない「サービス品質」をモニタリングするための指標としてNPS®を導入しました。

 2つ目は「将来の業績予想」です。きらケアのミッションが達成されてユーザーが本当に満足できる転職をしたとき、そのユーザーはその職場で働き続けてくださるかもしれません。しかし裏を返せば、そのユーザーは今後きらケアの転職サービスを使わない可能性が高く、ユーザー満足度が最高だとしても将来の売上には繋がるとは言い切れません。そこで、他者への利用推奨の可能性を数値化することで、利用ユーザーからの波及効果を見える化するために、NPS®を導入しました。なおNPS®スコア改善による売上期待値を数式化した事例も数多くあるため、改善にあてる投資に対するリターンの予測も可能となっており、このことから経営的な観点で見ても非常に取り組みやすい指標です。

NPS®導入による効果

①ユーザーから問題・課題を直接受け取り、確実な改善が可能
②ポジティブコメントのシェアにより、組織モチベーションが向上
③担当営業には直接言えない改善要望の回答場所の提供が可能

 ①について、これまで、サービスの問題・課題を数値や結果から想定することで対策を打っていましたが、NPS®のコメントによってユーザーから直接・大量の意見を収集できるようになったことで、より実際の問題解決に繋がる対策が可能になりました。

 ②について、NPS®の自由記入欄にて、ユーザーからの感謝の言葉を直接受け取ることができます。これを社員に共有することで「自分たちのサービスが世の中の役に立っている」と、よりリアルに感じてもらうことが可能になりました。

 ③は事前に想定していませんでしたが、NPS®のアンケートがある種の「第三者的な調査機関」と認識された結果、現在サービスを利用いただいているユーザーから「担当営業には言いにくいが、もっとこうしてほしい」という改善要望の声を得ることができました。これにより、その場で改善対応が可能となり、適切なサービス提供ができます。もともとは「将来の」期待価値を高める目的で導入したNPS®でしたが、「現在の」ユーザーに対してもより良いサービス提供が可能になったことは、非常に嬉しい誤算でした。

「NPS®」を最大限活かすために

導入時に気をつけたい3つの注意点

①改善に取り組み続けること
 NPS®を実施し続ける限り、ユーザーから届いた声をもとに課題を特定し、解決し続ける必要があります。NPS®でコメントだけ収集して何も改善しない場合、ユーザーの時間だけを奪うことになり、長期的に見たときNPS®の回答収集アクション自体がネガティブに捉えられる可能性が高いためです。ユーザーから回答時間をいただく以上、こちらはその声と期待に応える責任があります。実際に改善できるだけの社内リソースの有無などを考慮し、事前に綿密な計画・設計が必要になります。

②自サービス内でスコア比較すること
 自サービスと、他社サービスのスコアを比較することは意味をなしません。なぜなら、業界やどのように回答収集するかによってスコアは大きく異なるためです。そのため「自サービスのスコア変化を追うこと」が正しい取り扱い方です。時系列でスコア変化をモニタリングすることで、サービス品質の現状把握と、改善状況の確認が可能となります。

③コメント内容により共有方法を変えること
 ユーザーからのコメント内容により、誰が・誰に・どのように伝えるかは、慎重に選択するべきです。

 ポジティブなコメントは「良い行動事例」として、ミッションやビジョンと紐付けた形で、事業部長などトップから組織に所属する全員に向けて発信するのが有用です。これにより、組織として推奨する行動の浸透が可能になります。なおコメントを見た社員がユーザーからのリアルな温度感を受け取ることができるよう、弊社ではポジティブなコメントはそのままの内容をシェアしています。

 一方で、ネガティブなコメントは「全員にシェアしないこと」「担当社員にそのまま伝えないこと」が重要です。前者の理由ですが、ネガティブな指摘は、社員全員に当てはまる内容であることは少ないためです。そのため、シェアをしても不要なネガティブ感情の伝播が起きるだけであり、これは望ましくありません。後者の理由ですが、そのままのコメントは事実以外も含まれていることがあり、これを直接本人に伝えた場合、素直に受け入れることが難しくなることがあるからです。そこで、レバレジーズでは第三者チェック機関を設けて内容の精査を行い、「本人に伝える必要があるかどうか」「伝える必要があるなら、どう伝えるべきか」を判断します。本人にフィードバックする際は、そのままのコメントではなく問題箇所のみを抽出し伝えることで、改善策を講じています。そうすることで、不必要にネガティブな感情が働くことなく受け止めることができ、それにより問題を正しく認識し、改善に真摯に取り組むことができます。

NPS®を基に、組織を本質的に変える方法

 NPS®は、ユーザーからのリアルなコメントを組織へフィードバックできます。しかし「NPS®を導入すれば、組織の行動が変わるか」というと、答えは「No」です。なぜなら、既存の組織にはこれまで培ってきた文化があるからです。この文化を変えない限り行動は変わらず、結果には繋がりません。

 そこで弊社では「ジョン・コッターの8つのプロセス」を用いて、組織文化変革プロジェクトを計画・実行しています。

■ジョン・コッターの8つのプロセス
1:危機意識を高める
2:変革推進のための連携チームを築く
3:ビジョンと戦略を生み出す
4:変革のためのビジョンを周知徹底する
5:従業員の自発を促す
6:短期的成果を実現する
7:成果を生かして、さらなる変革を推進する
8:新しい文化を企業に定着させる

 上記の遂行には、ビジョンや戦略レベルでの動きを必要とするため、事業部長・リーダーとの強い連携が必須です。ただし弊社に関して言えば、上層部が日頃から密にコミュニケーションを取っているため、お互い信頼し合っている状態です。そのため事業課題やビジョンについて目線が合っており、施策もスムーズに進んでいます。こうして事業の上層部と一丸となり、社員への働きかけを行うことで、組織文化の変革・社員の行動変化へと繋がります。

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最後に

今後の展望

 「NPS®を活用した事業成長」が目標です。NPS®スコアが高いということは、その担当社員がユーザーに対して質の高いサービスを提供できている証拠です。先述の通り、NPS®は「人に薦めるか」を問うため将来の期待価値を定量的に示した指標と言えますが、時間軸はズレたとしても社員ごとの現在の展開率や売上と相関関係があり、NPS®の向上に取り組むことが結果的には個人スキルや成果に結び付きます。そしてそれは従業員満足度に繋がり、さらに対外へのサービス品質や顧客満足度、また事業の収益改善に繋がるため、積極的に取り組んでいきたいです。

本来実現すべき拡大サイクルと向き合えるNPS®

 これまで、レバレジーズのマーケティング部は時間あたりのリターンを鑑みて、主にユーザーの登録・認知に注力してきました。しかし、その根幹には「サービスそのもの」があり、そのサービスの質向上が何より重要です。登録・認知は、サービスを広めるための手段に過ぎません。

 広告への資金投入で認知を広げることもできますが、サービスとして本来実現すべき拡大サイクルはバイラル(=口コミ)による認知拡大です。「人に薦めたくなるほどのサービス価値」を提供できれば、サービスの認知はバイラルで自然に広がるようになります。このサービスの質と、直接的に向き合えるのがNPS®です。

 もし今この場でユーザーに対して「適切な就業機会を見つける」という価値提供ができなかったとしても、「人に薦めたい」と思われるような対応を心がける。それが「きらケア」というサービスの未来を作り、介護に携わるユーザーのポジティブな未来を作ります。それは明確に、「世の中を良くするサービス」であることを意味します。この考えを軸としながら、自分たちの仕事に誇りを持ち、ユーザーに最高の価値提供を実現することで社会問題を解決できるサービスにしていきます。




注:ネット・プロモーター、ネット・プロモーター・システム、NPS、そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標又はサービスマークです。