20周年

技術的制約を設計力で覆した、KDD Cup 2026世界4位の舞台裏

新卒エンジニアマーケティング中途

職種

世界各国のデータサイエンティストや研究者がしのぎを削る、世界最高峰のデータサイエンスコンペティション「KDD Cup 2026」。レバレジーズの有志チームが、「Data Agents for Complex Data Analysis」をテーマとする部門で、世界703チーム中4位に入賞しました。
世界トップレベルのAI開発力を持つ企業や研究機関が名を連ねるなか、技術力とチームワークで輝かしい実績を残した3人。開発を担ったソノダ、シバタ、コウヅに、試行錯誤の舞台裏と、そこで得た最先端の技術や知見を事業へ還元する展望について聞きました。
(ライター:アオキ)

Contents
Profile
  • ソノダ
    システム本部 テクノロジー戦略室

    2025年中途入社。KDD Cup 2026では、LLM推論サーバーやGPUをはじめとするインフラ環境の構築・チューニングを担当。甲賀流忍者検定中級の資格を持つ。

  • シバタ
    システム本部 テクノロジー戦略室

    2026年中途入社。KDD Cup 2026では、Agentのアーキテクチャ設計や実装、検証を中心に担当。個人でも継続的にデータサイエンス系コンペティションへ参加。Kaggle Masterの称号を持つ。

  • コウヅ
    マーケティング本部 データ戦略室

    2025年中途入社。KDD Cup 2026では、Agent開発における実験・検証を中心にサポート。趣味はフットサル。

KDD Cup挑戦について語るレバレジーズのソノダ氏

「面白そうじゃない?」から始まった、有志9名の挑戦

まずは今回、世界的なコンペティションであるKDD Cupに挑戦された経緯から教えてください。

ソノダ氏のアイコンソノダ

スタートは「面白そうじゃない?」という会話からでした(笑)。会社から指示を受けたわけではなく、完全に私たちの自発的な挑戦です。

システム本部には「10%ルール」という、業務時間の10%を使って自分の好きな技術や気になる領域の研究・開発に取り組むことができる制度があるんです。

その10%ルールをベースにして「ちょっとAI Agentのコンペ、みんなでやってみようぜ」と社内で声をかけたら、システム本部やマーケティング本部のデータ戦略室などから合計9名の参加者が集まり、3人ずつの計3チームが出場しました。

シバタ氏のアイコンシバタ

私は2026年4月に入社したばかりでしたが、以前から趣味や自己研鑽の一環として、Kaggleなどのデータサイエンスコンペに参加していました。KDD Cupは国際学会に併設された、より学術色の強いコンペティションです。「関心のあるAI Agent領域の最先端技術に触れたい」「学会系のコンペで自分の力がどこまで通用するのか試したい」という思いから、入社直後ではありましたが、参加を決めました。

コウヅ氏のアイコンコウヅ

私は普段データアナリストとして業務をおこなっているのですが、最初は「技術的にかなり高度で難しそうなので、横で見学しながら勉強させてほしい」という気持ちで手を挙げました。

まさかここまで規模が大きくなり、世界4位になれるとは、当時は全く思っていませんでしたね。

通常業務と並行しながらのコンペへの参加は、大変ではなかったですか?

ソノダ氏のアイコンソノダ

もちろん一定の時間は使いましたが、業務時間外をそこまで圧迫することはなかったです。

10%ルールを活用し、日中の業務の合間にAIへの指示やガードレールの設計を作成して実行する。あとは裏でAI Agentが勝手に分析やコード生成、検証まで回してくれるので、通常業務を進め、朝起きたら結果が届いているようなAI駆動開発のサイクルができていました。

ほんの2年前は人間が泥臭く1からコードを書く必要がありました。でも今は、人間が高度な指示とガードレールさえ設計していれば、実装や検証の大部分はAIがやってくれます。AIがコードを書いている間に、私たちは通常業務を進めたり、最新の論文を読んだりして次のインプットに時間を割いたりすることができる。技術の進化によって、開発プロセスそのものが劇的に変わっているのを体感しましたね。

世界4位という素晴らしい結果ですが、一方で1位との差はどこにあると感じていますか?

ソノダ氏のアイコンソノダ

正直に言って、エンジニアとしての圧倒的な経験値と、それを取り巻く研究環境の差だったと感じます。

1位は中国の巨大IT企業の美団社のアルゴリズム専門チームで、2位はAI半導体で世界頂点に立つNVIDIA社のトップデータサイエンティストたちのチーム。彼らは潤沢なGPU環境を備え、日常的に圧倒的な計算リソースを叩いてデータサイエンスの限界に挑んでいるプロフェッショナルです。

対する私たちは、どちらかというとプロダクトをつくり、事業や社会に貢献するエンジニア。その環境の差がありながらも世界4位まで食い込めたのは、自分たちの設計思想やアプローチが間違っていなかった証拠ですし、大きな自信になりましたね。

入賞後、韓国で開催されたKDD Cupの国際ワークショップに参加されたそうですね。現地の空気感はいかがでしたか?

シバタ氏のアイコンシバタ

現地には世界中からトップクラスの研究者や大手企業のR&D部門の人たちが集まっていて、技術的に最先端を走っている方々ばかりでした。レベルの高さを実感しましたし、刺激的な場で自分たちの取り組みを発表できたことは純粋に嬉しかったですね。

ソノダ氏のアイコンソノダ

私たちのチームのようなプロダクト寄りの事業会社から参加しているのは、正直珍しいケースでした。参加者と話していると、「えっ、自前のGPU持ってないの!?」と驚かれましたね(笑)。

また、現地で発表されている最先端の論文や技術に触れて強烈な刺激を受けました。トップカンファレンスで研究者たちが議論している知見は、およそ「3〜6ヶ月先の未来」で当たり前に使われるようになる技術です。私たちは普段AI Agentをつくっているチームとして、社内の誰よりも先に最新情報をキャッチアップしている自負がありました。しかし現地で触れたのは、我々にとっての最前線のさらに先をゆく景色でした。こうした技術の潮流をいち早く捉え、社内プロダクトに還元していく役割を担わなければならないと、改めて身が引き締まりました。

KDD Cupワークショップ会場での発表風景
KDD Cup参加メンバーによる議論の様子

「モデルは変えられない、GPUも足りない」。制約を設計力で覆したAI Agent開発

ここで、今回挑戦されたテーマについて教えてください。

シバタ氏のアイコンシバタ

課題は、複数テーブルのデータベースや文書、動画といった複雑なデータソースと自然言語の質問が与えられ、Agentが自律的にデータを探索・集計し、指定されたCSV形式で正確な回答を出力するというものでした。

特に難易度を引き上げていたのが、推論を担当するLLM自体は「Qwen 3.5」というモデルに限定されていた点です。モデルのパラメータチューニングや上位モデルへの変更という「モデル側の力技」が一切使えません。純粋にAgentのアーキテクチャ設計とプロンプトエンジニアリング、そしてツール実行の制御だけでどこまで精度を極められるかという勝負でした。

モデルが固定されている中で、具体的にどのような技術的障壁があったのですか?

シバタ氏のアイコンシバタ

公式のベースラインとして提供されていたReActという仕組みをそのまま使うと、一つ大きな問題がありました。

答えらしきデータが一つでも見つかると、十分な探索や検証をおこなわないまま、見切り発車で回答を出してしまう挙動が散見されたんです。データソースが複雑になるほど不十分な探索のまま集計してしまい、誤った出力で終わってしまう。さらに、LLM特有の「出力の不確実性(揺れ)」によって、ステップを重ねるごとにランダム性が蓄積されていきます。途中で一度でも迷走すると最終的に全く違う答えに到達してしまうため、この不確実性にどう対抗するかが本当に難しかったですね。

その問題を、どのように解決したのですか?

シバタ氏のアイコンシバタ

人間のデータアナリストが実際におこなう分析フローを模倣し、Agentの行動を制御する「4フェーズのパイプライン」を自作しました。

具体的には、Agentのプロセスを以下の4つに完全に分離しました。

・Plan(計画): 渡されたデータと質問を理解し、どんな手順でデータを叩くか計画を立てる。

・Explore(探索): 実際にSQLやPythonを叩いて、必要なデータがどこにあるか探索する。

Answer(回答): 集めた情報をもとに回答を作成する。

・Verify(検証): 作成した回答が質問の意図や指定フォーマットを満たしているか愚直に検証する。

ポイントは、各フェーズに明確な「完了条件」を設けたことです。たとえばExploreフェーズで一定の条件を満たすデータが集まるまでは、絶対にAnswerフェーズに進めないようにガードレールを引きました。自由度が高すぎて迷走してしまうReActの自由さをあえて制限し、プロセスを固定化することで精度のブレを大幅に抑え込みました。

実験やサンプリングを大量に回すとなると、大規模なGPU基盤が必要になりますよね。

ソノダ氏のアイコンソノダ

まさにそこが私たちの最大の壁でした。正直に言って、上位に入賞しているチームと比べると、私たちが持っていた計算リソースは桁違いに少なかったんです。

前述した通り、1位は中国の巨大IT企業の美団社のアルゴリズム専門チームで、2位はAI半導体で世界頂点に立つNVIDIA社のトップデータサイエンティストたちのチーム。彼らは潤沢なGPU環境を備えていて、圧倒的な速度で試行錯誤を回せる状態にありました。私たちが1回のテストに2時間かかっている間、相手は30分で終わらせていたんです。

試行回数に4倍の差があったと。

ソノダ氏のアイコンソノダ

そうなんです。相手が私たちの4倍の試行回数を重ねられるということは、それだけ仮説検証のサイクルが早く回り、実験の再現性や精度の向上スピードで圧倒的に有利になるわけです。

レバレジーズは事業会社であり、研究所のように無制限の自社GPUを持っているわけではありません。同じ土俵で正面から勝負しても、勝ち目はない。

だからこそ、私が担当した「インフラのチューニング」が勝負の鍵になりました。

具体的にレバレジーズの開発環境で、どのようなインフラのチューニングを施したのですか?

ソノダ氏のアイコンソノダ

今回のタスクで処理するデータ量を分析すると、全体の約9.5割を入力(インプット)が占めていて、出力(アウトプット)はごくわずかという構造だったんです。それなら、莫大なインプットの処理速度やキャッシュ構造に特化したサーバーチューニングを施せばいい。たとえアウトプットの生成が多少遅くても、インプット側の処理速度を極限まで高めれば、トータルの処理時間は大幅に短縮できます。

このチューニングによってトークンの処理速度は通常の2倍近くまで跳ね上がり、高負荷にも耐えられる安定した環境をつくることができました。実際、社内の他チームのサーバーが高負荷により止まっている間も、私たちの環境はバグひとつ起こさず、高速に試行を回し続けることができたんです。

今回4位入賞という成果を出せたポイントはどこにありますか?

ソノダ氏のアイコンソノダ

一番は「専門性が完全に異なる3人」でチームを組めたことですね。私が「インフラ・GPU調整」、シバタさんが「Agent実装」、コウヅさんが「検証とサポート」と明確に分かれていました。

同じ職種で固めるとプロンプトの泥沼にハマりがちですが、元クラウドエンジニアの私がダッシュボードを見て「そもそもインフラのエラーでテキストが欠落しているよ」と全く別の角度から最速で原因を特定できる。このロールの分散があったからこそ、無駄な迷走を防げました。

シバタ氏のアイコンシバタ

本当に助かりました。ソノダさんがインフラの速度と安定性を担保し、コウヅさんが裏でサポートしてくれたおかげで、私はAgentのロジック開発に100%集中できたんです。

各自が自分の領域で仮説を立てたらすぐコードを動かし、出てきた数字(スコア)で客観的に判断するスタイルを徹底していました。議論のタイムロスをなくし、事実ベースで判断できたこともスピード感につながったと思います。

分析結果を見ながら議論を交わすレバレジーズの開発チーム

「やりたい」を、実際の開発へ。技術者の自発的な挑戦を支えるレバレジーズの環境

ここまでのお話から、個人の自発的な挑戦が尊重されるカルチャーを感じます。実際のところ、レバレジーズは新しいAI技術やツールを試しやすい環境なのでしょうか?

ソノダ氏のアイコンソノダ

かなり試しやすい会社だと思います。「新しい技術を検証したい」「新しいツールを使いたい」と提案した際に、目的や期待できる効果を説明できれば、コストだけを理由に断られた経験はほとんどありません。実際にレバレジーズ全体としても、AI領域には年間で数億円規模の積極的な投資をおこなっています。

今回のKDD Cupは有志での参加であったため、予算が用意されていた訳ではありませんが、通常業務で目的と成果が見えていれば必要に応じてクラウド環境やAIツールを活用できます。会社から指定された技術だけを使うのではなく、開発者自身が必要な技術を考え、提案し、検証できるのは本当に面白い環境ですね。

セールスやマーケティング、エンジニアリングなど、事業運営に必要な機能をすべて社内に備えた、インハウス体制の事業会社だからこそ、データ分析やAI開発において感じられる面白さはありますか?

コウヅ氏のアイコンコウヅ

データ面には圧倒的な強みを感じています。実際の事業活動から生まれた一次情報が豊富にあり、必要に応じて現場社員に背景まで確認しながら仮説検証できるのは、インハウスならではの醍醐味です。

さらに、レバレジーズは世界的なプラットフォーマーとも協業しながら、AI領域での先進的な取り組みを進めることができています。豊富なデータと長年蓄積してきたマーケティングノウハウを生かし、AIを単なる技術検証で終わらせず、実際の業務や事業成果につなげられる。ここまで大きなスケールでAI活用に挑戦できることも、レバレジーズで働く面白さだと思います。

自社でのAI技術活用と今後の展望について話すメンバー

コンペの熱量を実務へ。世界レベルのナレッジを事業へ還元する

今回のKDD Cupで得られた技術や知見は、今後どのようにレバレジーズの業務や事業へ還元されていくのでしょうか?

コウヅ氏のアイコンコウヅ

現地ワークショップでは、ByteDance社やMeta社の大規模な効果検証や、予測タスクにおける基盤モデルの活用について学びました。早速、担当事業のモデル開発に取り入れたところ、予測精度が向上しており、すでに業務の成果につながり始めています。

シバタ氏のアイコンシバタ

今回得た知見は、AIプロダクトにおける不確実性をガードレールと検証プロセスによって制御する設計に応用できます。

実際に、現在ソノダさんと開発している社内向けのコーディング支援AI Agentにも、この知見を取り入れています。入社直後から世界レベルのコンペに挑み、その技術をすぐに実務へ落とし込めるスピード感は刺激的ですね。今後は、安全で高品質なアウトプットを実現するための標準設計として、ほかの社内開発にも広げていきたいです。

ソノダ氏のアイコンソノダ

レバレジーズでは、事業数や他職種の人数に対してエンジニアの数が少ない状況です。そのため、非エンジニアや若手エンジニアでも、安全に高度な実装やデータ操作ができる環境をつくろうとしています。

KDD Cupで得た技術を生かし、組織全体の生産性をどこまで高められるか。今後、目に見える成果として還元していくのが楽しみです。

最後に、今回の世界4位という快挙を振り返って、これから目指していきたい展望を教えてください。

ソノダ氏のアイコンソノダ

出発点は、本当に「面白そうだからやってみよう」という純粋な好奇心でした。世界4位という成果を残せましたが、私たちはこの結果に甘んじるつもりはまったくありません。

単にコンペで勝利して終わりではなく、自分で課題を見つけ、必要な技術を選び、それを実際の事業価値として還元していくところまでやり切る。それこそがレバレジーズで開発する一番の面白さであり、私たちエンジニアの真価だと思っています。今回の成果を一つの通過点として、これからも技術で事業を力強く牽引していきたいです。

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